赤瑪瑙奇譚 第三章――9

ユキアの仕度を取り仕切ったのは、 もちろんセセナだが、 見事な手腕を 発揮していた。
 自分の装いを選ぶときとは まるで違う。 ユキアと目的にあったものを 的確に用意していた。
 道中に纏っている物も、 色は ごく淡い朱色で 華やかだが、
 余計な装飾を排して、 その代わりに 生地と仕立ては 極上。
 高貴な気品をかもし出して、 ユキアによく似合う。 宝飾も 数を抑えて 良い物だけを 身に着けている。

 原石そのままの 赤瑪瑙の首飾りは さすがに 合わない為、 帯に絡めて、 内側に挟んでいた。
 金の鎖が見えるだけだが、 それなら、 帯に下げた飾りのように見えて 違和感は無い。
 もはや、 どこからどう見ても 華やかな姫君以外の何者でもなかった。
 ここまできたら 腹を括って 頑張るしかない。
 大きく深呼吸をして、 自分に 言い聞かせた。


「もうすぐ国境ね」
 景色を眺めていたユキアが 何気なく つぶやいた時、
 同乗していたメドリが、 思い出したように 懐から手紙を出した。

「忘れるところでした。 おじゃる丸が 姫様に渡してくれ というので 預かってまいりました。
 お忙しそうで お会いできないので、 お手紙にしたそうです」
「おじゃる丸って、 はいはい、 タマモイ殿下ね。 何かしら」

「万が一、 つまみ食いがどうの と書いてあるようでしたら、
 帰ってから わたくしが絞め上げますから おっしゃってくださいね」
「それなら、 自分で絞めるから 大丈夫よ。 あら、 それどころじゃないみたいよ」


《警告でおじゃる。

 我らが情報網に、引っかかり申し候事有り、 急ぎ ご注意参らせ候。
 マホロバの姫が 狙われておるやも知れず、
 お身の回りの警護、 おさおさ怠り召さぬよう ご用心なさるべく 申し上げ候。

 我が鋭き推察によれば、 ご婚儀までは 動かぬと思い候えども、
 機会ありし折には、 今のうちに ご新居の宮など お調べ置かれますれば、 後々 ご安心かと存知参らせ候。

 セセナ姫なれば、 警護の者に伝うるべきところ、
 そなた様は すでに ご承知のことにて、 直接お知らせする次第にて 御座候。

 ユキア様   ご存知より》


 隣にいるメドリが 心配そうに見ているので、 渡してやると、 読んで こめかみに 青筋を立てている。
「こんな一大事を 怪しげな候文で……、 理由が 何も書いてないではありませんか。
 おまけに、 下々(しもじも)の恋文でもあるまいし 《ご存知より》ってなんですか」

「すぐには動かない様子みたいだし、 警護の者達には、 必要だと思ったら わたしが言うから、
 まだ 内緒にしておいてね」
「はい。 剣と覆面は、お言いつけ通りに持ってきましたけれど、 無茶はなさらないでくださいね。
 他国なのですから」


 こうして 馬車は、 コクウの城に到着した。

 迎え出た者たちは、 一様に 目を見張った。
 降り立った姫君は、
 大国マホロバ王国の 気品ある豪華な華やかさと、 文化の薫り溢れる美しさを纏(まと)っていた。
 平和な国が生み出した 豊穣(ほうじょう)を目の当たりにして、 心が震え、 温かく開いていく。
 そして、 長い戦に明け暮れた日々の愚かさを 思い知った。

 新しい未来があるはずだと、 それぞれの胸の中に、 その姿が 浮かび上がる。


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